Thursday, February 08, 2007

口頭試問終了

卒論の口頭試問が終わりました。以下、簡単に総評。

大亀さんの「確率統計的分析による大工道具の地域的分布の研究」は、大工道具の寸法や地域などに関するデータベースを作成し、それを相関分析やクラスター分析などをすることによって、地域差を見いだしたり、地域が不明な大工道具について推定してみようというもの。物質史料の計量的研究として方法論的に枯れている(確立している)し、レコード数も5,580件と個人レベルではかなり多いので、ベースは高く評価できる。一方、実際の分析においては、例えば高い相関が出ているデータについてどのように解釈するか、などの点が抜けており、本格的な研究はこれからという感じである。また(大亀さんも認識していることだが)最終的には地域的な分布だけでなく、歴史的な変遷などにも目を向けなければならないだろうし、本格的な研究にはサンプル数も偏りなく、もっと多い方がいい。卒論にそんなハイレベルなことを求めるのは酷かもしれないが、逆に言えばそのような発展が容易に想像できるぐらいの質の高いデータベースであるとも言える。

林さんの「ケガレ研究文献データベースの作成 〜学際的交流を目指して〜」は、従来、歴史学、民俗学、宗教学、人類学、社会学、文学、部落問題研究などの様々な分野で議論されてきた「ケガレ」の問題について、学際的な交流が必要だという問題意識の下、それを活発化させるためのシステムのプロトタイプを作ってみました、というもの。研究文献データベースを軸に、最近流行の集合知を実現するための仕組みとして、コメント機能を追加した。集合知については大向一輝「Web2.0と集合知」にあるように、単にコメントがつけられるだけでなく、集約性が重要である。しかしながら、林さんのシステムではコメント機能しかなく、各分野の「ケガレ」概念を統合したり、共通認識を醸成するような仕組みが明示的には存在しない。また、データの件数も、研究者を集めるためには少ないと言わざるを得ず、今後の開発にかかっていると言える。

大本さんの「前田利家に関する論文・書誌データベース」は、前田利家関連の書籍にマンガや一般書、観光案内のようなものが多く、歴史研究者、特に初学者にとって情報を収集しやすい状況ではないという状況を踏まえ、主に歴史研究を始めたばかりの学生を対象に前田利家に関する学術論文のデータベースを構築した、というもの。コンセプトは理解できるが、このコンセプトを実現するための方法に問題があるように思われる。すなわち、コンセプトを明確にするために、データベースに収録する対象(論文など)と利用者を厳しく限定した結果、レコード数が少なく、一部の人(花園大学史学科の学生)しか利用できないものができあがってしまった。せっかく作ったものも、利用されないのでは意味がない。むしろ、データ化の対象や利用者の制限を緩くして、コンセプトにあった絞り込みが可能なデータベースにした方がよかったのではないだろうか。

Wednesday, February 07, 2007

シンポジウム「知の構造化と図書館・博物館・美術館・文書館」

東京大学創立130周年記念公開シンポジウムだそうです。「図書館・博物館・美術館・文書館における知の組織化」がテーマらしい。シンポジウムのタイトルには「構造化」とあり、趣旨説明には「組織化」とあるが、「構造化」と「組織化」は同義語ということなのだろうか?

それはともかく発表内容はというと、
  • 早乙女雅博(人文社会系研究科)「高句麗古墳壁画の模写資料」
  • 馬場 章(情報学環)「文化資源統合デジタルアーカイブの試み」
  • 石川徹也(史料編纂所)「学術活動成果の集積としての知識データベース」
ということで、かなり情報歴史学的である。ぜひ聞きにいきたいところだが、2月17日に東京出張は無理だなぁ。

Sunday, February 04, 2007

情報歴史学の教育に挑む

国立歴史民俗博物館が発行している『歴博』No. 140は、特集「コンピュータ歴史学の歴史」である。
  • [巻頭言]鈴木卓治「地道にそして着実に」
  • 田良島哲「コンピュータ、ネットワークと歴史研究 —これまでとこれから—」
  • 横山伊徳「私のデジタル化戦略 コンピュータで史料編纂所の二〇年を歩む」
  • 師茂樹「情報歴史学の教育に挑む」
  • [コラム]照井武彦「歴博コンピュータ奮戦記」
  • [コラム]五島敏芳「真の〈デジタル〉アーカイブ構築への挑戦 —資料目録電子化の現場から」
どれも興味深い記事であるが、その中で私も情報歴史学コースのことについて書かせてもらっている。原稿締切が去年の秋だったので、紹介しているゼミ生諸君の研究テーマも2005年度卒業生のもの(川畑君の「織田信長と朝廷に関する論文データベース」と藤井君の「明石城武家屋敷の3D画像作成」)や、研究会で作ったQRコード+携帯電話の博物館閲覧支援システムなど)が中心である。

この中では、「情報歴史学は補助学か?」という問い(この問いについては、ゼミの中で何度か議論したことであるが)に、次のように答えてみた。
筆者の考える情報歴史学は、まず第一には、歴史学のある研究分野の方法論や伝統について分析し、それをコンピュータを使って記述する(≒データベースを作成する)という学問である。それは、対象となった研究分野の研究者から見ればツールが提供されたように見えるだろう。しかし、データベースとして表現された方法論や伝統が暗黙のものであった場合、それが視覚化されることによって新たな議論、すなわち方法論的な反省が発生する契機となる場合もあろう。それをふまえて第二には、従来の研究方法を相対化できるような新しい方法を模索し、それによって歴史学の研究を行うことである。以上のことから、筆者は、情報歴史学は補助学ではないと考えている。

私が書いた記事以外も(の方が?)おもしろいので(横山先生のはなんとパンチカードから!)読んでみてほしい。

なお、情報歴史学コースについては、他にも以下のような紹介記事があったりする。