Saturday, February 14, 2009

卒論へのコメント (3)

(2)の続き。

武市篤志「近江人物データベースの作成と公開」

武市論文は、京都や奈良に比べて近江(滋賀県)の歴史が知られていない、という問題意識のもと、近江人物データベースを作成し、それを小学校〜高等学校で利用してもらうことで、滋賀県の歴史研究を活発にしたい、というものである。

所謂「新学習指導要領」においては、例えば中学校の社会の歴史的分野における指導要領として、
身近な地域の歴史を調べる活動を通して、地域への関心を高め、地域の具体的な事柄とのかかわりの中で我が国の歴史を理解させるとともに、歴史の学び方を身に付けさせる。
と述べられているので、特定地域向けの歴史教育用のウェブ・コンテンツを作成することは、それなりに意義はあろうかと思う。しかし、「近江(滋賀県)の歴史が知られていない」という評価は印象論に過ぎず(悪く言えば、滋賀県民の京都、奈良に対するひがみ? (^_^;;)、先行事例として近代日本人の肖像を評価する際も「写真が出ているので親しみやすい」みたいな表層的な評価にとどまっている。また、そもそもデータベースが作られておらず、机上の空論と言われても仕方がない。もっと頑張って欲しかった。

富士田暁「近年の皇位継承問題に関する文献データベースの作成と公開」

タイトルの「近年の皇位継承問題」とは、小泉首相の頃、皇室典範を改正するとかしないとか揉めていたあの問題である(皇位継承問題 (平成) - Wikipedia参照)。富士田論文では、何十年か後に恐らくは再びおこるであろう皇位継承問題において、国民一人一人が正しい知識を持ち、活発に議論することでこの問題の解決を目指すべきだ、という問題意識のもと、それに資するデータベースの作成と公開について論じている。データベースに収録される「文献」とは、週刊誌や新聞などの記事が中心である。

「国民的議論を喚起したい」という点をめぐって、大きな問題点がいくつか考えられる。そもそも天皇制に反対している人も、無関心な人も「国民」である。特に前者の発表した論文等は収録するのかしないのか(しないのであれば「国民的議論」にならない)、という問題は曖昧にされたままである(データベースには収録されていなかったが)。また、データベースを作成すれば「国民的議論」が発生するかというとそれは多分無理で、データベースを利用してもらう仕組みを考えなければならないだろう(この点は岡本論文のテーマでもある。(1)参照)。

現段階では、プロトタイプということもあり、インターネットでは公開していないが、ARGの岡本真さんからのアドバイスもあり、公開を目指しているとのことなので、期待&応援したい。

小田島太郎「シュルレアリスムの定義からみたお笑いのシュール」

小田島論文のテーマは、見ての通り情報歴史学とはほとんど関係がない。何度も面談して、すでにプロのお笑いの世界に半分入っている小田島さんの(大袈裟に言えば)実存を尊重して、特別にこのテーマを認めた次第である。

さて、この論文では、「シュール」と評価されるお笑いのネタが、ブルトン「シュルレアリスム宣言」などに見られる「シュルレアリスム」の定義と比較することで、お笑いにおける「シュール」を評価しよう、というものである。具体的にとりあげられるお笑い芸人は、シティボーイズ、ラーメンズ、千原兄弟である。

遺跡調査報告書電子化の新たな試み?

以下のようなイベントがあるようです。

Thursday, February 12, 2009

卒論へのコメント (2)

(1)の続き。

坂本華奈「珍敷塚古墳の3DCG復元とその問題点について」

坂本論文は、福岡県うきは市にある屋形古墳群のひとつで、ヒキガエルなどの絵で知られている装飾古墳である珍敷塚古墳の復元についての研究である。この古墳は現在、壁の一部しか残っておらず、また保護のため展示にも制限が加えられているという状況である。この古墳については、壁の絵をどのように解釈するか、という研究は多くなされているものの、石室などの全体的な構造については研究が進んでいるとは言えない。3DCGによる復元を試みることで、全体像の研究に資したい、というのが主旨。

時間をかけて作成したCGは、未完成ではあるが、その努力を多としたい。

問題点をあげれば、本研究の目的は序論では「石室や外形」「全体像を検討」となっているものの、論文の後半にはムービーについて議論が展開され、そこでは研究者以外の人(見学者)の利用(展示)も想定されているようである。結局、目的はどこにあるのか、はっきりしない。

また、どのような目的であるにせよ、ムービーの見せ方が論文に書かれているような方法でよいのかについては、単に先行事例を踏襲するだけでなく、もっと検討すべきであっただろう。

副査の高橋克壽先生からいろいろ貴重なアドバイスをいただけてありがたかった。可能ならば、ちゃんとしたものに仕上げて展示してみたいですね。

清水祥央「宮上茂隆案に基づく安土城の3DCG復元」

安土城の復元案については様々な説が出されているが、内藤昌氏の案がメジャーとなり、メディアを通じて広く知られている。しかし、内藤氏の説に対しては様々な批判がなされており、内藤説が一人歩きしている状況は好ましくない。清水論文では、内藤昌氏以外の有力な説として宮上茂隆氏の説を採用し、それによる3DCG復元を試みる。

研究史のまとめは、川村信三氏の「「史実」とは何か —安土城天主(守)復元「論争」の顛末—」(『歴史家の散歩道』所収)に大きく依拠している。


着眼点はおもしろいが、3DCGは完成にはほど遠く、また論文も単なる安土城研究史の概観にとどまっており、もう少し早く準備していればと悔やまれる。

Wednesday, February 11, 2009

卒論へのコメント (1)

昨日、口述試問が無事に終わったので、簡単にメモしておこう(参考: 2006年度2007年度)。

岡本知沙「WWWにおける高い集客能力のあるコンテンツの分析 〜2ちゃんねる、ニコニコ動画を中心に〜」

岡本論文は、序論で次のように述べる。
近年、大学や研究機関、図書館などにおいて、多くのデジタルアーカイブやデジタルコンテンツが公開されるようになってきている。しかしながら、それらの多くは作りっぱなしの場合が多く、開発費に見合った効果が得られたのかどうか、検証されることはほとんどない。
この問題を解決するための予備的考察として、岡本さんは2ちゃんねるニコニコ動画など、ユーザーが多く集まり、積極的に活用されているサイトの分析を行う、というのが本論文の主旨である。

「作ったものは立派だと思う。で、どうやってユーザーに使ってもらうの?」という問題は、人文科学とコンピュータ研究会の発表でもしばしば聞かれるもので、岡本真さんの『これからホームページをつくる研究者のために』とも問題意識を共有している。また、2ちゃんねるとかニコ動の分析は、濱野智史氏の『アーキテクチャの生態系』などによって、単なる印象論から脱しつつある状況で、これまた時宜を得ていると言える。


その意味では着眼点がとても興味深く、またいろいろな先行研究を参照している点も評価できる。しかし、問題点を絞り込むことができず広く浅くなってしまい、各章に有機的なつながりがなく、つぎはぎな感じになってしまったのは残念である。序論で述べられたデジタルアーカイブの問題点の解決策についても、それまでの議論をふまえたものには必ずしもなっておらず、その点も残念。

また——先行研究にありがちな、新しいネット文化を過大評価するトーンに毒されてしまっているのかもしれないが——2ちゃんねるやニコ動のコアなユーザーを過大評価、あるいは一般化しすぎているように見受けられる。加えてこれらのサイトを分析する際に使われる「ネタ」という概念が、「真実」「情報」の反対概念だったり、コミュニケーションの種だったりと、非常に都合のいい万能な用語として使われている印象がある。

小笠原祐也「日本中世都市史に関する研究文献データベースの作成と公開」

日本中世都市史に関する研究史をまとめた前半部分は、副査の先生に「ここだけは文献史学の論文として発表してもよいくらい」と言われるぐらいよくできている。

しかしながら、この研究史のまとめや、先行データベース(例えば国立歴史民俗博物館中世地方都市データベースなど)の評価が、実際のデータベースの作成にあまり活かされていないのが残念である。例えば、研究史のまとめにおいて注目されていた「曖昧な都市概念」「都市的な場」のような問題に対して、このデータベースはどのような解決策を提供しているのか。論文の中でも、データベースの設計レベルでも、この点ははっきりと示して欲しかった。あるいは、中世都市データベースの「都市情報の検索」という機能をただ紹介するだけでなく、その必要性を批判的に評価することができれば、データベースのあり方は今とは違ったものになったのではないだろうか。

(他の学生もそうだが)論文とデータベースなどの作品とが、どちらか片方ではなく、両方必要である点をもう少し考えて欲しい。