Friday, February 12, 2010

卒論へのコメント

先日、卒論の口頭試問が終わったので、簡単にメモしておく(昨年度のコメントはこちら)。下のメモは、口頭試問時に学生一人ひとり渡したものにちょっと手を加えたもの。

小川亮「地域振興のための小谷城復元3DCGの作成」

小川論文は、長浜市に残っている小谷城址を重要な文化財であるとともに貴重な観光資源でもあると考え、2011年のNHK大河ドラマ『江 〜姫たちの戦国〜』などを見据えた地域振興を目的とした3次元CGの作成について論じるとともに、実際にムービーを作成している。

浅井氏に関する先行研究が、ほぼ一人の研究者(小和田哲男氏)の議論に乗っかっているのは問題かもしれない。浅井氏を主題とした研究書等は限られるだろうが、織田信長や朝倉氏などに調査対象を広げることもできたのではないか。

地域振興についてであるが、観光協会などに事前調査はしたのか。観光学の論文を引いて「ビジュアル」の重要性を強調している点は、一般論としては有意義かも知れない。しかし、長浜市が抱えている固有の問題を、この方法で解決することができるのか。

ムービーについて、独力で作ったムービーとしては(細かい点を指摘すればキリがないが)がんばって作ったのではないかと思う。しかし、これが観光目的のムービーであると言われてもピンとこない(花大の歴博で展示したムービーに似ているが、あれは展示用)。観光目的の映像として工夫した点はどこか(例えば、教育用コンテンツとの違いはなにか)。観光情報(あるいは大河ドラマの情報)などを付け加えることはできなかったのか、など、工夫の余地がある。

大藤雄亮「江戸城の内部構造の3DCG作成について」

あらゆる点で準備不足。しかも、それはこれまで何度も指摘している。真剣に卒業論文に取り組もうとしたのだとは思えない。猛省を望む。

※ 細かいコメントは省略。

手塚宗二郎「中世の大鎧の3DCG作成とその問題点」

多くの作例を実見し、また早くから研究史のまとめに取り組み、草稿を何度も提出するなど、卒業論文にかけた労力は認める。しかし、残念ながら質的には不十分であると言わざるを得ない。

最大の問題は、「3DCG作成とその問題点」がテーマであるにも関わらず、実際のCGの制作までたどり着いていないということである。

※ 細かいコメントは省略。

本郷聡明「マルチエージェント・シミュレーションによる縄文時代の未発見遺跡推定」

国内でもほとんど事例がない歴史学におけるエージェントベース・シミュレーションの応用に取り組んだ点、特にartisocを自力でマスターしプログラミングを行った点については評価したい。また、研究史のまとめにおいても、シミュレーションを行うことを前提としたまとめとなっており、よくありがちな単なるまとめになっていない点は評価したい。

シミュレーションの本質は単純化・抽象化・モデル化であるが、それは手を抜くことではない。今回作成されたシミューレションについて言えば、研究に必要な複雑さは容認し、モデル化する必要があったのではないか、と言いたくなってしまう。例えば、地形情報は単純すぎたのではないか/エージェントの行動パターンはランダムでよかったのか。etc...

今回のモデルでは「どこにでも遺跡が存在しうる」という結論であったが、これは“こういうモデル化ではうまくいかない”という意味でバッドノウハウあるいは失敗学的な意義はあったものの、本来の目的を達成しているわけではない。時間の関係もあるだろうが、今後の工夫が必要であろう。

鹿谷慧「近世城郭史研究の傾向と課題 ―論文データベースの作成と分析を通じて―」

鹿谷論文は、近世城郭史の研究の特色をふまえたうえで、この研究分野での研究ではCiNiiなどの汎用の研究文献データベースが使い辛いことを指摘し、それに代わる近世城郭史論文データベースの作成の報告をしている。

全体としてはよくあるテーマなのであるが、まず大前提となる近世城郭史の研究史のまとめと分析が不十分であると言わざるを得ない。論文内でもほぼ同じ内容の記述が繰り返されているだけで、引用する文献数に乏しく、また近世城郭史研究の特徴としてあげられているのが「城郭統制」だけしかない。そのため、研究史の分析が、データベースの作成理由につながっていない。

研究文献データベースの先行事例としてCiNiiWebcat Plusなどの汎用的なデータベースをとりあげ、専門的なデータベースであるインド学仏教学論文データベース(INBUDS)と比較することで、前者の問題点を抽出しようとしているのは意義がある。ただし、CiNiiなどが使いづらいことが、そのまま独自のデータベースを作る理由になるわけではない。利用者として想定される近世城郭史の研究者コミュニティの分析はしたのか。想定される利用者である研究者コミュニティが抱えている問題を調査したのか。

データベースのプロトタイプを作成したわけであるが、100件程度のレコード数は、検索目的のデータベースとしては少なすぎる。また、引用文献についてのフィールドが存在しており(CiNiiがCitation Indexであることを意識したのか?)、それなりに役に立つかも知れない(研究史の分析などには使えるかも知れない)が、CiNiiが近世城郭史研究において不便であるという問題意識を解決することにはならない。