川端康司「歌川広重『名所江戸百景』における色が鑑賞者に与える影響」
SD法を使ったアンケートによって、広重の作品における赤色がどのような影響を鑑賞者に与えているのかを研究した論文。先行研究をよく調べ、着実にやってきた点は評価したい。この論文の問題点をあげれば、現代人の感性についての研究なのか、美術史的な研究なのかについて、きちんと区別されていないという点であろう。前者であれば広重の作品を使う理由を美術史の先行研究だけで言うことはできないが、この論文では美術史関係の先行研究の整理が中心である。逆に、美術史的な(歴史的な)研究であれば、アンケートをベースにした方法は意味がない。
副査の福島先生が言って下さったように、自身の「感性」を無批判に作品分析に適用してしまう美術史の研究者が実際におり、その人たちの態度を「勉強」してしまったのかもしれない。
土屋美穂「キトラ古墳の三次元復元と公開・利用に関する研究」
当初、3DCGを作成することを目標にしていたのだが、間に合わなかったのが残念。これから作るとのことなので、ぜひ卒業までに完成させて欲しい。内容的なことを言うと、先行研究の調査については副査の高橋先生(昨年まで奈良文化財研究所にいて、今もキトラの調査に関わっている)からお褒めを頂く程なので、よくがんばったと思う。もっとも、本論文においては復元と保存がごっちゃになっており、復元に関する先行研究(情報の欠如部分を埋めるための周辺情報など)が少ないのが残念。このような混同は、実際に3DCG作成を始めていれば自ずと気づき、解消される部分であると思うので、繰り返しになるがCGの開発に入れなかったのが惜しまれる。
文字利光「丹波国分寺のCG復元とその問題」
こちらも上の土屋論文同様、CGを作れなかったこと、そのために復元と保存を混同するミスを犯していることが問題点として指摘できる。加えてこの論文では、作成したCGを学校教育や博物館展示などで利用する場合を想定した議論を行っているのであるが、その中で「博物館には人が来ないとはじまらない」→「そのためには楽しさ、エンターテインメントの要素が必要」という議論を展開している。このような提言は、特にかつて「マルチメディア」が流行した頃、博物館情報学や教育工学などにおいてさかんに言われたことであるのだが、真に受けない方がよいのではないか、少なくとももう少し批判的に検討すべきだったのではないか、と思われる。
山本拓矢「GPS活用による姫街道研究」
GPSを手に、実際に姫街道を踏破した努力は買いたい(ケモノ道のようなところまで分け入ったとのこと)。ただ、そうして作ったデータが、実際の姫街道研究にほとんど活かされていないのは残念(山本さん曰く、GPSのデータよりも、データを取りに現場に行ったことでわかったことの方が大きかった、との由)。先行研究の整理の部分については難点が多い。姫街道関連の先行研究をまとめる作業は割に早めに終わっていたのに、周辺分野の先行研究の調査がほとんどなされていなかったり、また先行研究から問題の所在を導くのも、時代が異なるものを一緒くたにして論じているところがあるなど、適切ではない部分も見受けられる。
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