武市篤志「近江人物データベースの作成と公開」
武市論文は、京都や奈良に比べて近江(滋賀県)の歴史が知られていない、という問題意識のもと、近江人物データベースを作成し、それを小学校〜高等学校で利用してもらうことで、滋賀県の歴史研究を活発にしたい、というものである。所謂「新学習指導要領」においては、例えば中学校の社会の歴史的分野における指導要領として、
身近な地域の歴史を調べる活動を通して、地域への関心を高め、地域の具体的な事柄とのかかわりの中で我が国の歴史を理解させるとともに、歴史の学び方を身に付けさせる。と述べられているので、特定地域向けの歴史教育用のウェブ・コンテンツを作成することは、それなりに意義はあろうかと思う。しかし、「近江(滋賀県)の歴史が知られていない」という評価は印象論に過ぎず(悪く言えば、滋賀県民の京都、奈良に対するひがみ? (^_^;;)、先行事例として近代日本人の肖像を評価する際も「写真が出ているので親しみやすい」みたいな表層的な評価にとどまっている。また、そもそもデータベースが作られておらず、机上の空論と言われても仕方がない。もっと頑張って欲しかった。
富士田暁「近年の皇位継承問題に関する文献データベースの作成と公開」
タイトルの「近年の皇位継承問題」とは、小泉首相の頃、皇室典範を改正するとかしないとか揉めていたあの問題である(皇位継承問題 (平成) - Wikipedia参照)。富士田論文では、何十年か後に恐らくは再びおこるであろう皇位継承問題において、国民一人一人が正しい知識を持ち、活発に議論することでこの問題の解決を目指すべきだ、という問題意識のもと、それに資するデータベースの作成と公開について論じている。データベースに収録される「文献」とは、週刊誌や新聞などの記事が中心である。「国民的議論を喚起したい」という点をめぐって、大きな問題点がいくつか考えられる。そもそも天皇制に反対している人も、無関心な人も「国民」である。特に前者の発表した論文等は収録するのかしないのか(しないのであれば「国民的議論」にならない)、という問題は曖昧にされたままである(データベースには収録されていなかったが)。また、データベースを作成すれば「国民的議論」が発生するかというとそれは多分無理で、データベースを利用してもらう仕組みを考えなければならないだろう(この点は岡本論文のテーマでもある。(1)参照)。
現段階では、プロトタイプということもあり、インターネットでは公開していないが、ARGの岡本真さんからのアドバイスもあり、公開を目指しているとのことなので、期待&応援したい。
小田島太郎「シュルレアリスムの定義からみたお笑いのシュール」
小田島論文のテーマは、見ての通り情報歴史学とはほとんど関係がない。何度も面談して、すでにプロのお笑いの世界に半分入っている小田島さんの(大袈裟に言えば)実存を尊重して、特別にこのテーマを認めた次第である。さて、この論文では、「シュール」と評価されるお笑いのネタが、ブルトン「シュルレアリスム宣言」などに見られる「シュルレアリスム」の定義と比較することで、お笑いにおける「シュール」を評価しよう、というものである。具体的にとりあげられるお笑い芸人は、シティボーイズ、ラーメンズ、千原兄弟である。