卒論の口頭試問が終わりました。以下、簡単に総評。
大亀さんの「確率統計的分析による大工道具の地域的分布の研究」は、大工道具の寸法や地域などに関するデータベースを作成し、それを相関分析やクラスター分析などをすることによって、地域差を見いだしたり、地域が不明な大工道具について推定してみようというもの。物質史料の計量的研究として方法論的に枯れている(確立している)し、レコード数も5,580件と個人レベルではかなり多いので、ベースは高く評価できる。一方、実際の分析においては、例えば高い相関が出ているデータについてどのように解釈するか、などの点が抜けており、本格的な研究はこれからという感じである。また(大亀さんも認識していることだが)最終的には地域的な分布だけでなく、歴史的な変遷などにも目を向けなければならないだろうし、本格的な研究にはサンプル数も偏りなく、もっと多い方がいい。卒論にそんなハイレベルなことを求めるのは酷かもしれないが、逆に言えばそのような発展が容易に想像できるぐらいの質の高いデータベースであるとも言える。
林さんの「ケガレ研究文献データベースの作成 〜学際的交流を目指して〜」は、従来、歴史学、民俗学、宗教学、人類学、社会学、文学、部落問題研究などの様々な分野で議論されてきた「ケガレ」の問題について、学際的な交流が必要だという問題意識の下、それを活発化させるためのシステムのプロトタイプを作ってみました、というもの。研究文献データベースを軸に、最近流行の集合知を実現するための仕組みとして、コメント機能を追加した。集合知については大向一輝「Web2.0と集合知」にあるように、単にコメントがつけられるだけでなく、集約性が重要である。しかしながら、林さんのシステムではコメント機能しかなく、各分野の「ケガレ」概念を統合したり、共通認識を醸成するような仕組みが明示的には存在しない。また、データの件数も、研究者を集めるためには少ないと言わざるを得ず、今後の開発にかかっていると言える。
大本さんの「前田利家に関する論文・書誌データベース」は、前田利家関連の書籍にマンガや一般書、観光案内のようなものが多く、歴史研究者、特に初学者にとって情報を収集しやすい状況ではないという状況を踏まえ、主に歴史研究を始めたばかりの学生を対象に前田利家に関する学術論文のデータベースを構築した、というもの。コンセプトは理解できるが、このコンセプトを実現するための方法に問題があるように思われる。すなわち、コンセプトを明確にするために、データベースに収録する対象(論文など)と利用者を厳しく限定した結果、レコード数が少なく、一部の人(花園大学史学科の学生)しか利用できないものができあがってしまった。せっかく作ったものも、利用されないのでは意味がない。むしろ、データ化の対象や利用者の制限を緩くして、コンセプトにあった絞り込みが可能なデータベースにした方がよかったのではないだろうか。
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